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HAPPY NEWS 2017
ハッピーニュース

だいすきな木をきらないで

朝日新聞 2017年12月3日付朝刊を読んで

小林 由香利さん (大阪府:35歳)

いいなあ! このやりとり。自分の住む街の街路樹が大好きで、通りすがりにいつも葉っぱや花を見上げていただろう男の子。街の人たちの生活を守るために見回りをする中で古木の危険性を察知し、早く手を打とうとまじめに働くおじさん。どちらも、一日一日を堅実に、一生懸命に生きている二人だと思う。年齢は30歳ほど離れていても、「生きる姿勢」に通じるものがあって十分に分かり合える、そんな関係になれる二人だ。

この男の子はきっと、この街をもっと好きになる。いつか、この街の役に立ちたいと願って社会に巣立つかもしれない。いやそれ以前に、周囲の人を信頼する人間として育ってゆくだろう。そんな人間なら、どこで生きようとも、周りの人と関わって誠実に暮らしを築いていくだろう。「人づくり」。志方さんのお仕事ぶりはなんと大きな意味を持つことか。

記事本文

《ぼくのだいすきな木をきらないでください》

9月、神戸・六甲山のふもとの桜の木に、手紙が針金でくくりつけられていた。1枚の紙に、青いペンで書かれた文字が並ぶ。

《なるべく、みきをたくさんのこしてください》

差出人は「小4男子」とあった。街路樹を管理する市職員の志方功一さん(39)は、幼い文面を読んで思った。「子どもにもわかるように説明しないと」

前日。50本ほどの古木が連なる桜並木の一部に、「倒木のおそれがあるため撤去します」と印刷した赤いテープを巻いた。幹の内部が腐っていたからだ。

志方さんはすぐ返事を書いて、幹に結んだ。漢字にはふりがなをつけた。

《街路樹(がいろじゅ)を大切(たいせつ)に思(おも)ってくれてありがとう。このサクラは、幹(みき)の半分(はんぶん)以上(いじょう)が傷(いた)んでいて倒(たお)れる危険(きけん)が大(おお)きいことがわかりました》

幹が折れ、そばを走る車にぶつかりそうになるイラストも添えた。

《みんなの安全(あんぜん)が大事(だいじ)なのでしかたなく伐採(ばっさい)することになりました。赤色(あかいろ)のテープを巻(ま)いていないサクラは治療(ちりょう)をしながらできるだけ長(なが)く残(のこ)したいと考(かんが)えているよ》

約2週間後、今度は透明な袋に入った手紙が、同じ木にくくりつけられていた。

また桜の木を植えてほしい。まちが元気になるようにしてほしい・・・。そんな願いが込められていた。ヒマワリの種約70粒も入っていた。

志方さんは、返事を書いた。

《お手紙(てがみ)と大切(たいせつ)にしているものを分(わ)けてくれてありがとう。かわりのサクラは、人(ひと)が歩(ある)いたり、車(くるま)が走(はし)ったりするのに危(あぶ)なくない場所(ばしょ)に植(う)える予定(よてい)にしているよ》

大きく育ったヒマワリの絵も描いた。

《お手紙から街路樹(がいろじゅ)を大切(たいせつ)に思(おも)ってくれている気持(きも)ちが伝(つた)わってきて、心(こころ)が温(あたた)まりました》

「小4男子」は、誰なのか。志方さんは今もわからない。

桜並木のうち、伐採されるのは12本。志方さんたちが「文通」をした木も、もうすぐ姿を消す。(石田貴子)

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