満員電車の中で、ふと相好を崩した。父親がすすめてくれた地元の新聞。「電子版ならそっちでも読めるだろ」という一言に、都会での暮らしが当たり前になっても故郷の景色は忘れないでほしい、という父の思いを感じた。そしてそれから私は、毎朝スマホひとつで故郷に帰省するようになった。
その日は、雨だった。乗客たちの持った傘から滴り落ちる水が、車内の床を容赦なくぬらしていく。鬱々とした気分になりながらも顏を上げ、スマホを開いた。あまりいつものように記事をきちんと読む気にはなれず淡々と指をすべらせていたが、ある記事のところで指が止まった。「下灘駅」。懐かしい響きだった。昔小さい頃、家族で遊びに行った帰り、駅のホームから見える夕焼けの海があまりに美しくて電車に乗るのを泣いて拒んだ。私にとって、決して忘れることのできない大切な思い出。その思い出の駅を自分以上に大切にしてくれている人がいた。「ありがとう」を伝えたかった。
JR四国はこのほど、伊予市双海町大久保のJR下灘駅の待合室に長年、花を生けてきた地元の女性2人に社長感謝状を贈った。2人は「こんなことをしてもらえるとは思っていなかった」と満面の笑みで喜んだ。
2人は、いずれも駅がある日喰地区の隣の上浜地区に住む新幸子さん(93)と矢野上峯子さん(87)。
駅の環境美化活動に取り組んできた日喰老人会から2010年に依頼され花を飾り始めた。「琴仲間」だった上田シマコさんが11年1月に亡くなるまでは3人で行い、現在も片道約1キロを電動シニアカーで約1週間に1度出向き、花を取り換えている。
18日には下灘駅で山内崇司・松山駅長が感謝状を贈呈。地元の仲間らから盛大に祝福された2人は「いつもきれいねと言われると励みになる。長く続けているといいこともある」と口をそろえた。
感謝状は鉄道の日(10月14日)に合わせ毎年贈呈。県内では、伊予西条駅(西条市)にこいのぼりを飾っている西条保育所にも贈られた。(和田亮)