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「みんな一緒」自由な学び

信濃毎日新聞社 | 2016年7月26日掲載

信濃毎日新聞20160726トリミング済み

子どもたちへ手渡す未来(下) 黒柳徹子さんが語る「ちひろとトットちゃん」 温かい学園の記憶 「みんな一緒」自由な学び

栗色のレトロな列車の中が、子どもたちの笑顔で満たされる。北安曇郡松川村に23日にオープンした「トットちゃん広場」。ここには女優の黒柳徹子さんが少女時代に通った東京・自由が丘の「トモエ学園」が再現されている。戦争末期の空襲で焼失したが、70年余を経て松川の地によみがえった。

この日、現地で会見した黒柳さんは、「自分が初めて通った時のことを思い出して感動した」。こみあげる思いを抑えきれない様子だった。

学園は豊かな自然の中にあった。「『電車の学校』というのが特徴だったのよ」と黒柳さん。2両続きの車両は一つが教室で、古びた木製の机と椅子、国語の教科書や理科の実験器具がそろう。もう一つは本がずらりと並ぶ図書室。ほかにも、毛布にくるまってみんなでキャンプした講堂、財布を落としてしまったトイレのくみ取り口…。著書「窓ぎわのトットちゃん」につづられた学園での日々がここに来れば体感できる。

黒柳さんはこれまで、あまたの映画化の誘いを断ってきた。今回、細部まで忠実に再現するため全面的に協力し、制作スタッフの聞き取りに答えた。学園と同時代の電車が残っていることを知り、自ら長野市の長野電鉄まで足を運んだ。

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幼いころから好奇心旺盛だった黒柳さん。1940年春、小学校に入学したものの、授業中に机の上ぶたを開けたり閉めたりを100回くらい繰り返したり、教室から外を歩くちんどん屋に声を掛けたり。“問題児扱い”され、2~3カ月で退学となった。

黒柳さんを温かく迎え入れたのがトモエ学園だ。そこでは幼児教育に造詣の深い故小林宗作校長の下、子どもの個性を重んじる教育実践が行われていた。

授業は決まった時間割で進めるのではなく、個々に興味のあるものから始める。お昼の時間には、誰かがみんなの前で自分の考えていることを話す。クラスには障害のある子もいるし、みんな性格も違うけれど、困難はあっても自分でできそうなことはやってみる―。小林校長の口癖は「みんな一緒だよ、一緒にやるんだよ」。

軍国主義教育が徹底された戦時中にあって、自由に学ぶ楽しさを感じることができた経験は、後の人生に大きな影響を与えた。

そんな黒柳さんが、小さいころに大事だと思っていることは「いろんな人と(顔を合わせて)話し合って、分かり合う経験を積むこと」。だから今の子どもたちがスマホをいじっている光景を見ると、心配になるという。「親も先生も『時間がないから』なんて言わないで、話す機会をもっとつくってあげたらいい」。小林校長は初めて会ったトットちゃんの話を4時間も聞いてくれた。

広場は、トットちゃんの世界をたどるだけでなく、一人一人の子どもや家族が、それぞれの物語を紡ぐ場となるだろう。「自然の中で走り回って、子どもたち同士が話し合いながら、遊び方を考える場になってほしい」

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黒柳さんのまなざしは海外の子どもたちにも向けられている。84年に世界の子どもたちの命と健康を守る国連児童基金(ユニセフ)の親善大使になってから30年余、子どもが貧困や飢えで苦しむ地域に足を運んできた。

例えば、世界最貧国とも言われる東アフリカの南スーダン。「人口1200万人の国だけれど、小児病院が1カ所しかないんですよ」。現地から戻ると窮状を伝え、支援の輪を広げる働きかけを続ける。

「(世界中の)みんなが手をつないで、みんな一緒だよという気持ちで(子どもの問題に)取り組んでいかなきゃ」。黒柳さんの熱のこもった言葉は、小林校長の思いと重なっていた。(大井 貴博)

<地元の協力「涙出るほどうれしい」>
松川村が4年をかけて整備してきたトットちゃん広場。開設に至るまでには県内のさまざまな協力があった。

計画が大きく進んだのは2012年、当時の電車が手に入ってから。長野電鉄(長野市)が所有する車両「デハニ201」(1926年製)と「モハ604」(27年製)の無償提供が決まった。

黒柳さんは、保管先の旧屋代線・信濃川田駅(同市若穂川田)を訪ねた時のことを、「なんと驚くまいことか。本当に当時と同じだったんですよ」と振り返る。天井の照明や網棚、つり革…トモエ学園を懐かしく思い起こした。

電車の中に教室を再現するのに手を貸したのが、地元の池田工業高校(北安曇郡池田町)の生徒たちだ。机や椅子、本棚などを塗装して、昔ながらの雰囲気に仕上げた。黒柳さんは製作風景などを収めた写真を見て「トットちゃんの時代を知らない若者が作ってくれている。そんな姿を見て涙が出るほどうれしかった」と話す。

[トモエ学園]
1937(昭和12)年、教育者の小林宗作(1893~1963年)が東京都目黒区に創設。幼稚園と小学校を併設し、校長を務めた。小林は大正デモクラシーの自由主義教育の影響や欧州への留学経験から、子どもの個性と可能性を伸ばす教育法を追求。戦争の激化に伴い44年、学園は群馬県に疎開し、45年4月の空襲によって都内の校舎は焼失した。戦後は幼稚園のみが再建された。

[トットちゃん広場]
北安曇郡松川村の村営「安曇野ちひろ公園」(約5.3ヘクタール)の一角に開設。公園の拡張リニューアルに伴って整備された。電車の教室、講堂、相撲の土俵など「窓ぎわのトットちゃん」に登場する舞台が再現されている。
松川村は画家いわさきちひろ(1918~74年)の両親が戦後、開拓農民として暮らした場所で、ちひろも多くの絵を描いたゆかりの地。公園内にはその作品を紹介する「安曇野ちひろ美術館」があり、黒柳さんが館長を務める。

【写真】= 子どもたちと「電車の教室」に乗り込み、窓から手を振る黒柳さん=23日、北安曇郡松川村
【写真】= 黒柳さんが学んだトモエ学園の「電車の教室」=撮影年代不明、「小林宗作抄伝」より

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VOICE!応募作品から 29歳 長野県

私はいわさきちひろさんの絵が好きで「安曇野ちひろ美術館」に行ったことがある。ほっとする、優しい風が吹き、自然のぬくもりのある場所に、ちひろさんの描く子ども達が、にっこりと優しく私をむかえてくれた。 子どもが子どもらしく、何にもとらわれず自然の姿で微笑むことができる世界は本当に素晴らしいと思う。 子どもの時代にしか感じることができない思いや経験を大切にすることが、大人になって大きな宝物になると感じる。 黒柳さんの「いろんな人と(顔を合わせて)話し合って、分かり合う経験を積むこと」が大事という言葉が心に残る。家族と、友人と、先生と、その時に思ったことをじっくり話し合える場があるだけで、子どもの心は穏やかになると思う。色々な考えがあることを知り、お互いを理解し合えるようになることの大切さを改めて感じることができた。

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