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OUENDAN新聞応援団

2009.10.05 update.

ネットビジネスを起業したのは、新聞がきっかけだった。

笠原 健治 | 株式会社ミクシィ 代表取締役社長

新聞を読んでいた記憶は、小学校低学年ぐらいまでさかのぼれる。
社会面やスポーツ面、テレビ欄が楽しみで、毎日のように読んでいた。「父親が朝、新聞読んでいて、読み終わったところを、はぎとってもらったりして。新聞って、ばらばらにできるじゃないですか」
今年、創業10年を迎えた株式会社ミクシィの笠原健治社長はいう。1975年生まれだが、同世代のネット起業家とともに「ナナロク世代」と呼ばれる。

 

ネット産業が興りそうだな、と感じることができた。

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2004年に始めたSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「ミクシィ」は、ユーザー数1700万人を超す国内最大規模。06年9月、東証マザーズ市場に上場し、いきなり2000億円を超す時価総額に。金融危機にももまれ、時価総額は約900億円(09年9月末現在)となったが、新興市場のベスト10入りを続ける。
自宅で購読しているのは、経済紙と産業専門紙の2紙。仕事の忙しさ次第で、読む時間はまちまち。夜、帰宅後や週末に1週間分まとめて読むこともある。大学生のころから、この2紙の購読を続けている。

「ある種、新聞がきっかけだった」。97年11月、まだ大学3年生の時に、最初のネットビジネスとして求人情報サイト「Find Job!」を立ち上げた時のことを、そう振り返る。

大学の経済学部で経営戦略のゼミに入った。マイクロソフト対アップルのOS(基本ソフト)戦争とか、インテル対AMDのCPU(中央演算処理装置)競争、コンパックやデルのネット直販-。IT企業のケーススタディを学ぶうち、その世界に興味を持ち始め、大学入学を機に読み始めた経済紙に加えて、産業紙も取り始めた。

「すると、それまで興味を持っていたパソコン産業だけではなく、ちらほら、ネット系の記事が出始めていることに気付いたんです」。ヤフージャパンや楽天などの記事を読むうち、「ネット産業が興りそうだな、と感じることができた。それで、自分だったら何ができるか、と考え始めて」。生まれて初めてのパソコンを買い、ダイヤルアップ接続でネットをやり始めたのが大学3年の夏ごろだった。

「こんなマッチ箱1個のスペースで何万円もかかるんだ」。求人情報に目を付けたのは、アルバイト先の上司のぼやきからだった。求人雑誌を見ながらそれを単純計算していった時、「求人広告の市場の大きさがわかった」

商品数が多いものこそ、ネットの検索機能が役立つ-。このころ読んだ米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)のインタビュー記事も参考になった。求人も、大量に情報があり、自分で検索できるほうが探し勝手がいい。「ネットとの親和性は高いだろう、と思いました」

新聞は、非常に多くのリソースが凝縮されていると思う。

「Find Job!」、さらにプレスリリース配信代行サービス(現在は事業譲渡)を手がける中で、求人広告やリリースを掲載する企業の記事を、新聞で見かけることも多くなる。新聞を通して読むことで、より多面的に企業や業界のことを理解することができるようになった、という。「今でも、何かしらビジネスのヒントになればいいな、と思って読んでいます」

「新聞は、非常に多くのリソースが凝縮されていると思う」。たくさんの記者が取材し、情報が厳選され、記事化される。「そのコンテンツの質、が貴重ですね」。新聞の網羅性にも意味があるという。「1面で大きな扱いなら、そんなに興味はなくても目はいく。世の中では今、これが重要なのかな、ということがわかる」

一方、ネットでは、「みんながどんなニュースを見ていて、それについてどう思っているかがわかりやすい」。ブックマークしたニュースやコメントを共有するソーシャルブックマーク、メモ書きのようにニュースが共有できるミニブログを通じて、そんな情報空間が広がる。ミクシィでも、ニュース配信とそれに対する日記書き込み機能を提供している。

最近のニュースでは、やはり政権交代に関心がある。2008年5月には中国市場参入を目指し、子会社「ミクシィ上海」を設立した。「中国は行くたびに、すごい勢いで成長しているな、と実感する。将来、アジア経済や世界経済のバランスは変わるだろう。その中で日本経済が活性化し、きっちり成長していくことが重要。そういう政策を重点的にやって欲しい」

「新聞は、これまでの形態にこだわらず、フリーペーパーとの融合とか、ネットでの展開とか、いろんな可能性があるだろうと思う」。特に、ネットのメディアとしての新しさは「人とつながるところ」だという。「読者が、記者とも、読者同士でもつながれる。そこをコミュニティー化していくのがカギ。読者の力を引き出し、借りて、うまく巻き込んでいける仕組みがつくれるといいと思いますね」

PROFILE笠原 健治

東京大学経済学部経営学科卒業。大学のゼミで学んだitビジネスのケーススタディや米シリコンバレーにおけるインターネット・ビジネスの興隆に触発され、在学中の97年11月求人情報サイト「find job !」の運営を開始。99年に法人化し、代表取締役就任。2004年2月ソーシャル・ネットワーキング・サービス「mixi」を開始。06年2月社名を「株式会社ミクシィ」と変更し、同年9月に東京証券取引所マザーズに上場。