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2016.11.21 update.
紛失スマホ 海越え友情 中古電車に乗りインドネシアへ
◆鉄道マン発見 落とし主に返却
日本からインドネシアに輸出された中古電車が、思いがけない出会いを生んだ。電車が日本を走っていた頃、神奈川県の男子学生が車内でなくしたスマートフォンが、約5800キロ・メートル離れたジャカルタで、ひょっこり出てきたことがきっかけだ。スマホはこの夏、7か月ぶりに持ち主のもとへ戻り、発見者のインドネシア人鉄道マンと、落とし主の学生は、海を越えた友情をはぐくんでいる。(ジャカルタ支局 池田慶太、国際部 淵上隆悠)
スマホを見つけたのは「ジャカルタ首都圏鉄道会社」の整備士シャハリ・ロフマットさん(24)。昨年12月下旬、日本から輸出されたJR南武線(川崎市―東京都立川市間)の中古車両を、走行前にジャカルタの港で点検・清掃していた。座席下を確認するため細長いシートを外すと、「床に落ちている1台のスマホが目に入った」。どうやら、背もたれとシートとの隙間に挟まっていたらしい。
スマホケースのポケットには、日本人の物らしき学生証が入っていた。落とし主だろうとは思ったが、日本語が読めない。困ったロフマットさんは簡易投稿サイト「ツイッター」に学生証の写真を掲示し、協力を呼びかけた。
ロフマットさんは日本の鉄道が好きで、日本で走る電車の絵柄をプリントしたTシャツを自作し、社内で着るほど。アジアに駐在する日本人とも交流がある。呼びかけはインドネシア語だったが、鉄道ファン仲間の日本人駐在員の目に留まり、学生の通う大学と連絡を取ってもらうことができた。持ち主は神奈川県座間市の横浜国立大4年野田翔太さん(21)だとわかった。
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「あなたの物ですか」
野田さんのフェイスブックに英語のメッセージが届いたのは1月11日のことだった。学生証の画像も添付してあったため、ピンと来た。
約5週間前の昨年12月5日、南武線でスマホと学生証をなくしていた。連日JRに問い合わせ、警察に遺失届も出したが見つからない。仕方なく学生証を再発行し、古いスマホを引っ張り出して渋々使っていた。
なぜ、自分のスマホがインドネシアで発見されたのかは、後でわかる。JR東日本横浜支社によると、同社は昨年、南武線「205系」の中古車120両をインドネシアに有償で譲渡した。スマホが見つかった車両は、そのうちの1両だった。野田さんが乗車した翌日、日本での走行を終え、「第二の人生」に向けて搬送準備に入ったという。
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野田さんは、ロフマットさんにスマホを国際郵便で送ってもらおうとしたが、インターネットの翻訳機能を使ったやり取りでは、うまく意思が伝わらず、断念。就職活動を終えた6月、「やっぱり自分で取りに行こう」と決めた。
7月27日、2人はジャカルタの駅で初めて会い、野田さんはスマホと学生証を受け取った。2人を結びつけた「奇跡のスマホ」のカメラ機能を使って、一緒に記念写真も撮った。
8月にはロフマットさんが東京を訪れ、野田さんとともに都内周遊を楽しんだ。日本に滞在中、ロフマットさんが電車の網棚に土産の入った袋を忘れるハプニングもあったが、「最寄り駅に駆けつけると、駅員室に無事届けられていた」(ロフマットさん)という。
2人の交流はインターネット上で話題となり、野田さんのフェイスブックにはインドネシアの鉄道ファンなどから「友人になろう」とたくさんの連絡が届いている。野田さんは「このスマホと新しい友情は宝物」と話している。
◆中古車両 世界へ輸出
日本の鉄道会社は、高性能車両へのモデルチェンジなどで不要になった中古車両を世界に輸出している。
インドネシアはかつて新しい電車を輸入していたが、1990年代後半の経済危機に伴う財政難を受け、日本からの中古車両に切り替えた。ジャカルタ首都圏鉄道会社は2009年以降、JR南武線のほか、東京都営地下鉄などを走っていた844両を有償・無償で日本から譲り受けた。
アルゼンチンの首都・ブエノスアイレスの地下鉄では、東京メトロ丸ノ内線を走っていた車両が活躍してきた。「日本の鉄道は安全性や省エネルギーの観点で国際的な評価が高い」(国土交通省)という。
日本政府はインフラ(社会基盤)の海外輸出を成長戦略の柱に位置付けている。14年の海外受注実績は約19兆円で、20年に約30兆円に伸ばす目標を掲げている。このうち7兆円は交通分野で見込む。
図=野田さんがJR南武線でなくしたスマホはインドネシアで見つかり、日本に無事戻った
写真=紛失したスマホをシャハリ・ロフマットさん(左)から直接受け取った野田翔太さん(7月27日、ジャカルタで)=野田さん提供
写真=日本から譲渡され、ジャカルタを走るJR南武線の「205系」の中古車両(ロフマットさん提供)
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SNSで色々な人とつながるという漠然とした話はよく聞く一方で、トラブルもあると聞きます。facebookに登録してはいるものの、そこから先にはなかなか進めないでいる自分にとって、こんな素敵な出会いもあるのかと興味深く読んだ記事が「紛失スマホ 海越え友情」です。なくしたはずのスマホが海外で発見され、その持ち主を探すためにツイッターやfacebookが利用され、そして持ち主にたどりつけるなんて。SNSというツールというおかげで、広い世界でも気軽に連絡をとれる手段になりえることを知り、そしてそれがきっかけに全く知らなかった外国人の友人を得るきっかけになる素敵なお話で、読んでいてこちらまでうれしくなった記事でした。