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2014.05.23 update.
暮らす×働く 新時代(6)自分の人生を生きる 今いる場所に納得できるか
既存の枠にとらわれずに
「元気にやっていますか? こちらは、桜が咲きました」
春、イベント企画の仕事を手がける堀部知篤さん(34)=京都市山科区=のもとに、母からメールが届いた。息子を思う、シンプルな文面。1年前のように、別の仕事を勧めたり、生き方に干渉する言葉はない。「近そうで遠い」親子の価値観の距離はなかなか縮まらないけれど、それでも少しずつ、前に進んでいる気がした。
大手電機メーカーの社員時代、国際標準を作るプロジェクトのリーダーを任された。同僚や上司、周囲の環境も素晴らしかった。ただ「国や文化の違いを超えたプロジェクトを」と思いが募るにつれ、日本企業に属しているがゆえの「やりにくさ」も感じ始めた。手元には、しばらく生活に困らない程度の貯金がある。入社4年で辞表を提出した。
「うそ、やめてよ」。報告を聞いた母は泣き崩れ、父は「何様と思ってるんや」とあきれ果てた。大学を留年させてもらって入社した大手企業。「そりゃそやわな」。両親の気持ちはよくわかった。本当にこの選択がいいのか何度も自分に問い直したが、辞めたい気持ちは変わらず、辞めないと人生後悔する、と思えた。
退社後、個性を生かし合える社会を目指す個人事業「すなお企画」を立ち上げ、社会起業家らの協働拠点「Impact Hub Kyoto」(上京区)の運営にも携わる。異なる時代を生きてきた親の理解を得るのは簡単ではないとわかっているが、イベントに招き、パンフレットや新聞記事を送る。
価値観のずれは、子どものころから感じていた。期待に応えて入った進学校にもなじめずに遅刻を繰り返し、「頼むから普通にして」と言われてきた。そのたびに思っていた。「『普通』って何だ。人それぞれ違うのに」
サラリーマンも時をたどれば普通ではなかったし、親の時代は必然性のあったことも、今は違う。「普通じゃなきゃダメなら、『普通』の方が変わればいい」。誰かが作った枠にとらわれず、やりたいことを実現する人が当たり前に増えてほしい。「あの子も普通になったな」と、そう思ってもらえる日が来るように。
「あんなにどん底だったけど、今すごく楽しい。やりたいことはいろいろあるんですよ」。昨春大学を卒業した高田翔平さん(25)はこの春、京都を中心にまちづくり事業を手がける企業の契約社員になり、同社の拠点のコミュニティスペース「新大宮みんなの基地」(北区)に通う。1年契約の非正規雇用。決して安定した職ではないが、「これから」への思いを語る表情は、柔らかい。
教育熱心な両親のもと、レールに乗って歩んできた。就活を始める大学3年の時に「何を言われても納得できる道を行く」と決めたが、目指したアパレル業界には就職が決まらなかった。対象を広げると志望理由が浮かばず、「お金のためになんとなく働く」ことができない。4年の春、就活を辞めた。
卒業後も職に就かず、生きる意味さえ見失っていた昨夏、個人で多彩なプロジェクトを手がける社会人らと出会った。組織に属さない人たちに惹(ひ)かれ、プロジェクトを手伝った。家で「スーツ着て週5日出勤する仕事」を探すよう言われても、日々の「無給の仕事」は面白く、充実感が増すばかり。次第に人とのつながりもでき、気づけばニートではなくなっていた。
「ボーナスも出えへんのに」と心配されるが、不思議と自分の中に不安はない。「今いる場所に、ちゃんと納得できているからだと思う」。これからも、自分のアンテナを張って歩む。誰の人生でもない、自分の人生を生きる。(小坂綾子)
写真説明 「Impact Hub Kyoto」の運営について打ち合わせをする堀部さん。「『決められた道』は、誰かが決めた道。違いが優劣にならない社会をつくりたい」(京都市上京区)
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VOICE!happy news特派員・辻本 夕貴 19歳 大学生 京都府
果たして現在、社会人の中で何人が“今いる場所に納得”しているのか。100人いれば100通りの性格、個性があり、人生がある。人生は一度きりで自分だけのものだ。その中で「普通」とは何で、「普通」がいつも正しいのか。一度きりの人生を「普通」にとらわれることなく、少しの勇気と少しの行動力を持って、自分のしたいこと、納得できることをし、輝き続けたい。自分を良くも悪くもすることができるのは、他の誰でもなく、自分しかいないのだから。