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2014.08.27 update.

健常者と同じ頂へ 「障害の限界超える」

産経新聞社 | 2014年7月1日掲載

【MyLife 前を向いて】弱視のフリークライマー〝壁〟に挑む 健常者と同じ頂へ 「障害の限界超える」

壁にしがみつく前腕に力がみなぎる。体が一気に引き上がり、約4メートルある頂点まで瞬く間に届いた。神奈川県横須賀市のフリークライマー、福本順哉(じゅんや)さん(32)はトレーニングのため、同県藤沢市のボルダリング(室内クライミング)ジム「J―WALL」を訪れていた。
壁を下り周囲に見せた指の節々は太く、関節が少し曲がっている。「やりすぎで指が完全に開かないんです」。二の腕以上にたくましい前腕や大きな背中とは対照的な人なつっこい笑顔を浮かべる。
壁をするすると登る姿からは想像も付かないが、福本さんは後天性の弱視のため、ほとんど視力がない。マッサージ師として生計を立てながら、健常者と同じ大会に出場を続ける。今では実力が認められ、クライミングメーカーなどから道具のサポートを受けるまでになった。
◆打ち込めるもの
21歳の時、車の運転中に突然、右目の視野がなくなった。病院での診察後、担当医から「両親を呼んでください」と言われた。
病名は「円錐(えんすい)角膜」。角膜が薄くなり黒目の中心部が突出、視力が低下していく病気で原因は不明だ。病状は一気に進行し、両目の視力はほとんど失われた。23歳で右目の角膜移植を受けたが視力は戻らなかった。光を感じるものの全てがぼやけ、目の前に誰がいるのかさえ判別できない。
「しばらく引きこもりました」。横須賀市の中学・高校に進み、6年間テニスに打ち込んだスポーツマンは「1人では何もできない」と人生を諦めかけた。
転機は?歳で入学した県立平塚盲学校。自立のためにマッサージ師の資格を取ろうと必死だったとき、盲学校のクライミング部に誘われた。
初めてのクライミングは、登ろうとしてはすぐ落ちる散々な結果だったが「見えなくても打ち込める」と気付いた。
◆「何度落ちても」
上級者をまねることで上達するとされるクライミング。視覚障害者にはそれができないため、感覚を研ぎ澄まし、自己流で登る。
平成22年に千葉県で開催された「第1回視覚障害者クライミング世界選手権」では世界一になった。ただ、視覚障害のある競技クライマーは「世界で30人程度」(福本さん)という狭い世界。活躍の場を健常者と同じフィールドに求めた。挑戦には、文字通り〝壁〟が多かった。
各地で行われる大会に申し込むと「視覚障害者を受け入れた前例がなく、安全を約束できない」と、幾度となく門前払いされた。出場を認められても、健常者にひけを取らない技術の高さが「本当は見えているのではないか」との誤解を生んだ。それでも「障害の限界を超えるからこそ意味がある」と続けた実績が認められ、多くの大会に出場できるようになった。
目標は、健常者の日本選手権出場基準となる難易度の高い壁を登ること。成功すれば視覚障害者としては、世界的に前人未到となる。
完全失明の可能性を抱えながらも「障害で諦めたら何もできない。何度落ちてもしつこく登ります」と福本さん。プロクライマーとして生活することを夢見て、今日も頂を目指す。(大泉晋之助)

(無断転載を禁じます)

産経04

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VOICE!happy news特派員・みえ 20歳 学生 東京都

障害を抱えながらも、健常者と同じフィールドで戦おうとする福本さん。諦めないその姿に、心を揺さぶられた。「"壁"に挑む」という見出しにも、福本さんの生き方が映し出されているかのようで、ひかれるものがあった。

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