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2015.07.07 update.

戦死の夫へ 94歳の恋文

西日本新聞社 | 2015年6月10日掲載

青く澄んだ空に、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。昨年3月の昼下がり、福岡県糸島市の大櫛ツチエさん(94)は自宅の窓から外を見やると、戦死した夫、仁九郎さん(享年27)への思いが突然あふれ出した。「あなた」と呼んだら来てくれる気がした。「優しく包み込んでくれるような、幸せな気持ちになった」。その日から毎日、仁九郎さん宛てに日常をつづった手紙をしたためる。亡き夫への、94歳のラブレターだ。

流れる雲よ/心あらば/私の想(おも)いを伝えておくれ
遥(はる)かに遠い/ニューギニア/ジャングルの中に/今も尚眠る貴方(あなた)に届けたい
貴方!!/貴方!!

太平洋戦争が始まる2カ月前の1941年10月。20歳の大櫛さんは、税務署に勤務していた24歳の仁九郎さんと結婚した。三三九度の時、初めて会った仁九郎さんは言った。「まず恋をしようね。そして夫婦になっていこうね」
福岡市内の長屋を借り、新婚旅行で佐賀の唐津城に出掛けた。42年8月、長男の勝彦さんが誕生した。
4カ月後、仁九郎さんに召集令状が届く。夫は「子どもと両親を頼むよ」と言い残し、戦地に赴いた。
しばらくして長女洋子さんが生まれた。大櫛さんは毎日、手紙を書き近況を伝えた。台湾、マニラ、ニューギニア…。夫は転戦しながら現地の風景や花を描いた絵はがきをくれた。

今日は勝彦の誕生日である。僕もひげを剃(そ)り心から君(きみ)達(たち)の幸福を祈った

戦況が厳しくなった44年後半、夫からの便りが途絶えた。それでも、祈るように手紙を出し続けた。
終戦翌年の46年7月だった。夫戦死の公報が届いた。44年10月、ニューギニアのジャングルで戦病死したとみられるという。
子ども2人を抱きしめ、涙にくれた。後を追い命を絶とうとした。踏みとどまったのは、出征時の夫の言葉がよみがえったからだ。
縁あって、50年から小学校の代用教員となり、28年間教員を務めた。戦中のことは一切口にしなかった。
「思い出すことが好きじゃなかった」
ニューギニアを訪れたのは、夫との約束を守り、子どもたちを育て上げた還暦を過ぎてからだった。「よく来てくれたねえ」。そんな声を聞いた気が した。
米国や東京で働いていた勝彦さんが退職し、10年前、糸島市に一戸建てを建てて一緒に幸せに暮らす。
箱にしまっていた夫の手紙は100通を超える。一通一通手に取りつつ、今、夫婦の時間をかみしめる。

貴方!!/新聞のクロスワードパズルで全問正解/偉いでしょう!!/有難
う!!

(浜口妙華)

◇    ◇

大櫛さんの恋文を編集した本「70年目の恋文」(税別1200円、悟空出
版)が10日、出版される。

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VOICE!happy news特派員・広田亜貴子 25歳 会社員 福岡県

戦前から戦後、そして現在まで夫を思い続ける女性の強さと愛情の深さを感じた。2人の宝物として残る恋文を読みたいと思った。

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