BACK INDEX

HAPPY NEWSハッピーニュース

2015.07.24 update.

“熱い”浮世絵

福島民友新聞社 | 2015年7月3日掲載

◆スター絵師、斬新な企画…
◆”熱い”浮世絵
◆「江戸の悪」描き出す
県内も含め、全国的に浮世絵展が人気だ。ファンの多い喜多川歌麿などスター絵師の展覧会から、斬新な切り口で浮世絵の魅力に迫るユニークな企画まで多彩。ファン層も楽しみ方も広がりを見せている状況を識者に聞いた。
私たちは、なぜ「悪」のイメージに引きつけられるのか。それが人道から外れることを知りつつも、だからこそ気にならないわけにはいかない。心の底に落ちた暗い影は、かくも甘いのだ。
このような謎について、浮世絵に描かれた悪のイメージから考えさせる展覧会「江戸の悪」が、東京都渋谷区の太田記念美術館で6月26日まで催された。展示されたのは、歌川国芳や月岡芳年、三代歌川豊国らによる80点あまり。石川五右衛門、鼠小僧次郎吉(ねずみこぞうじろきち)といった大盗賊から幡随院(ばんずいいん)長兵衛(ちょうべえ)のような侠客(きょうかく)、吉良上野介や平清盛といった歴史上の人物、さらには悪女や毒婦まで、さまざまな悪人たちが登場した。
例えば、月岡芳年の「新撰(しんせん)東錦(あずまにしき)絵(え) 鬼神於松四郎三朗(きじんおまつしろさぶろう)を害(がい)す図(ず)」。四郎三朗に夫を殺された女盗賊のお松は、旅の道中で巡り合った彼の親切心につけ込み、その背に乗って川を渡るが、突然小刀を振りかざして男の首元を狙う。気配を察して恐怖におののく四郎三朗のゆがんだ顔と、川面から逃げ去る2羽の水鳥。対照的に、当のお松が実に冷静なのが、恐怖をより一層募らせる。
だが、そうした悪人も、いずれは処罰されざるを得ない。歌川国芳は、釜ゆでの刑に処され、わが子を抱えながら断末魔の叫びを上げる石川五右衛門や、大火から避難した寺の小姓と恋に落ち、彼と再会するために放火した罪で刑場に連行される八百屋お七という娘を描いた。注目したいのは、いずれもその背景におびただしい数の見物人が描き込まれていることだ。
罪を犯した悪人に注がれる好奇と憐憫(れんびん)が入り交じった視線。それが当時の庶民の悪に対する心情を代弁していることは事実だとしても、これらの浮世絵を鑑賞している私たち自身もまた、彼らと同じまなざしを持っていることに気付かされる。そう、悪行による苦しみや悲しみ、そして恐怖に戦慄(せんりつ)しながらも興奮を覚えるのは、罪人を取り囲む見物人のように、私たちが安全な場所にいるからなのだ。
正義や平和を逆に照射する悪。しかし、その暗い影がいつ何時全てを覆い尽くすか、誰にも分からない。
(美術評論家・福住廉)
国芳ブーム後ファン層拡大
近年の浮世絵人気について、郡山市立美術館で浮世絵展の担当経験がある鈴木誠一学芸課長は、斬新なデザイン力や奇想天外なアイデアが魅力として知られる歌川国芳の数年前のブームを振り返り「国芳の作品は、喜多川歌麿のような美人画でも、歌川広重のような情緒的な名所絵でもないし、葛飾北斎とも違う奇抜さがある。クリエイティブな仕事をしている現代の若い人たちに受けた」と話す。
これまで浮世絵では「愛好者は年配の男性」というイメージが強かった。しかし、「従来の浮世絵の枠にとどまらない魅力を持つ、国芳のような絵師の魅力が紹介されることで、ファン層が広がり、愛好者数が増えてきた」と鈴木課長は見る。(斎藤明日香)

17日から特別展
仙台市博物館
仙台市博物館は17日から、スター絵師の作品が並ぶ特別展「ご覧あれ 浮世絵の華―歌麿・北斎・広重 平木コレクションの名品」を開く。
同展では、戦前には国内の浮世絵3大コレクションに数えられていた、実業家平木信二氏のコレクションの中から、重要文化財などえりすぐりの優品を紹介。初期浮世絵の名品から、歌麿、北斎、広重らの華やかな作品まで、約170点を展示する。
前期展示は17日から8月9日まで、後期展示は8月11日から9月6日まで。月曜日(20日は開館)、7月21日休館。一般1200円、高校・大学生900円、小・中学生500円。問い合わせは同博物館(電話022・225・3074)へ。
◆歌川国芳「木下曽我恵砂路(きのしたそがめぐみのまさごじ)」(個人蔵)
◆月岡芳年「新撰東錦絵 鬼神於松四郎三朗を害す図(しんせんあずまにしきえ きじんおまつしろさぶろうをがいすず)」(太田記念美術館蔵)
◆歌川国芳「恋模様振袖妹背(こいもようふりそでめおと)」(太田記念美術館蔵)
◆仙台市博物館で展示される喜多川歌麿「芸者亀吉」(重要美術品)公益財団法人 平木浮世絵財団蔵

20150703熱い浮世絵

この記事でHAPPYな気持ちになったら

VOICE!happy news特派員・とめこ 19歳 大学生 福島県

私のなかで浮世絵といえば、歌川広重の東海道五十三次である。江戸の日本橋から京都・三条大橋までの53の宿場町を浮世絵として描いたもので、美しい風景はもちろん、江戸時代に生きた人々の生活のようすも垣間見ることができる。この記事は、私のなかの浮世絵のイメージを大きく覆すものだった。浮世絵には風景画や美人画だけでなく悪人を描いたものもあるそう。そのひとつひとつに物語があり、庶民の悪に対する心情を代弁しているという「悪」を描いた浮世絵。近年ではさまざまな博物館や美術館で展覧会が企画されている。浮世絵はもともと庶民の間で親しまれていた美術である。これを機に楽な気持ちで浮世絵に親しむ人が少しでも増えれば嬉しく思う。

HAPPY NEWS SHARE RANKINGHAPPY NEWS facebookシェア ランキング