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2016.11.22 update.
[医療ルネサンス]てんかんと就労(3)妻の支えで結婚相談業に(連載) ◇通算6421回
「自分と付き合うとこんないいことがあるとアピールしてください」。名古屋市のレストランで婚活パーティーの司会をする水谷啓伸さん(33)は、18歳から、激しいてんかん発作に苦しんできた。ここ1年は、新しい薬のおかげで落ち着いている。
自衛隊に入隊したばかりの2002年1月の朝、目を覚ますと周囲に誰もいなかった。慌てて集合場所へ向かおうとすると、上官に止められた。理由を聞くと、「寝ている時に全身が震えて、口から泡を出していた」と教えられた。
それから毎月のように同じ発作を繰り返すようになった。最初の発作から8か月後、良性の脳腫瘍があり、これが発作の原因とわかった。腫瘍のある場所は脳の奥で、手術は難しいとも言われた。薬を飲み始めたが、発作の頻度は増え、めまいや吐き気、ひどい時はうつや興奮状態も伴うようになった。
自衛隊は4年で退職し、アルバイトを始めた。しかし、仕事中に発作が起きると同僚や上司の態度が一変。気味悪がられ、「辞めてくれ」と言われて辞めた。「誰も病気を理解してくれない」と人間不信になった。
無意識のまま勝手に歩いたりする自動症も表れ、体のあちこちにあざを作って帰宅することも。08年から約1年間、家に引きこもった。「このままは耐えられない」と静岡てんかん・神経医療センター(静岡市)を受診した。検査で、腫瘍を完全には取り除けないが、手術は可能であることを告げられた。ただし、物や人の名前を覚えにくくなる後遺症も出ると言われた。それでも発作がなくなるならと、手術を決心した。
手術後、やはり物事を覚えにくくなり、メモ帳を手放せなくなった。ただ、以前のような発作はなくなり、一人暮らしを始めた。
そんなときに出会ったのが薬剤師で妻の実佐子さん(35)だった。持病と後遺症のことを明かすと「そうなの」と気にとめない様子で拍子抜けした。
交際を始めて間もない頃、デートの待ち合わせ場所に実佐子さんが現れないため電話した。だが、場所を間違えていたのは自分だった。それを責めることもなく、慌てて駆けつけてくれた。そんな人は初めてだった。
再就職先で再び発作が襲い、迷惑をかけるからと退社。個人で元手がかからず人のためになる事業として13年に結婚相談所を始めた。登録者のうち数十人がパートナーを見つけた。「今の自分があるのは妻のおかげ。一人でも多くの人がお互い支え合える相手を見つけてほしい」と願っている。
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写真=「今があるのは妻のおかげ」と語る水谷さんと実佐子さん(名古屋市で)
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VOICE!読者m 25歳 会社員 神奈川県
ある調査結果によると、他国と比べて日本の若者は自己肯定感が低いそうだ。うまくいくか分からないことに取り組む意欲が低く、「つまらない、やる気が出ない」と感じる若者も多い。早く結婚して家庭を持ちたいと希望は相対的に高いが、「40歳になったときに結婚している、子どもを育てている」というイメージを持つ若者の割合はやや低い。
病の症状が周囲から理解されず人間不信に陥った水谷啓伸さん。良き伴侶と出会い、支え合って生きることで幸せのサイクルに入っていく。婚活中の人の幸せを願う水谷さんの助言は、「自分と付き合うとこんないいことがある」とアピールすること。人生は山あり、谷ありだが、一緒なら悲しみは半分、喜びは倍になる相棒に出会う早道は、自分を知ることかもしれない。