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2017.06.08 update.

ベッドで楽しむ花見

東京新聞 | 2017年4月26日掲載

生活部記者の両親ダブル介護(15) ベッドで楽しむ花見 桜の枝持ち、父母の元へ

これも一種の「共謀罪」か。桜が満開の日曜日、弟(45)と共にはかりごとをめぐらす。「桜の枝を折ってこい」。首謀は私。実行は弟。だが、弟は枝を折るのは忍びないと、ちぎれかけた小枝を「助けてきた」と言う。人々の手に触れたからであろうか。ちぎれた小枝はいくつかの花を付けながら、水を入れた紙コップに保護されていた。プラスチックの上ぶたの飲み口が、枝を挿すのにちょうどいい。

「準備行為」も整った。本当は、父(80)を施設から連れ出して母(81)のいる病院へ行き、「一家で花見」といきたかった。だが、父は微熱が下がったばかり。なので二部構成とする。

施設での一次会。「外は満開やよ」と弟は桜を見せるが、父の目は私が持つコンビニ袋に注がれている。「花より団子」ではあるが、今日はクリーム入りの洋菓子。「甘ければ何でもいいんや」と父。「では、花見酒も」と私。父におちょこを渡し、三分の一ほど注ぐ。「うまいな…」と父。酔わすわけにはいかない。せがむ父をちびちびとなだめながら一次会を終える。

花見客でごった返す辺りを避けながら車で二次会へ。途中渡る川の堤も満開だ。この土手で親戚一同で花見をしていた昔を思い出す。兄弟共に家を出て、そんな習いも絶えて久しい。

母のいる病院に着いた。兄弟そろうのは久しぶり。弟が母に桜を差し出す。「いっぱい咲いとるよ」と弟。「きれいやねえ」と母。母はベッドから伸ばした右手を、紙コップの脇でかすかに揺らす。「本当にきれいやねえ」。気が付いた。母は花をなでているつもりなんだ。(三浦耕喜)

絵解き:桜をめでる父と母。せめて紙面では2人並んで

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VOICE!ポップターツ 22歳 大学生 埼玉県

「親の介護」。22歳の私にとって、正直向き合いたくないテーマだ。これから就職して働き、定年を迎えても「介護」という「労働」をするかもしれない。「一生働くのかあ」と私は憂鬱な気分になってしまう。そんな日本の若者が誰しも思っていそうな社会状況で、本記事から感じたのは「介護を楽しむ」ことである。「介護」。ネガティブなイメージがまとわりつくこともあるが、三浦記者と弟の「ベッドで花見」という工夫に加え、桜を探すやりとりの中で「兄弟」だなと感じさせる箇所に心が温まった。「疲れる」「大変」といった事実はある。だが、そんな状況でも介護をする人々は、三浦記者のように「癒やし」を見つけるべきなのかもしれない。83歳になる私の祖父は、現在、長野県の特養施設に入居している。首都圏に住む私は頻繁に会えないが、少しでも孤独を感じさせないよう、三浦記者のように何か考え、祖父との残りの時間を大切にしたい。    

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