OUENDAN新聞応援団
2009.07.05 update.
インターネット上でのコミュニティを提供するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大手、グリーの田中良和社長は「新聞は中学時代から20年以上慣れ親しんだ有力な情報入手手段」だと語る。毎日、昼食をとりながら30分近くかけて新聞に目を通す。平均年齢29歳という社員にも新聞を読むよう勧めているという。
「子供のころからゲームが好きで、雑誌から情報を得ていたが、ある日、新聞のほうが情報が早いのに気付いたんです」。田中氏が新聞でよく読むのは企業の製品発表などが載っている経済欄。ゲーム情報欲しさに中学時代から新聞を読み始め、今も毎日欠かさずに愛読しているそうだ。
ネットとの違いは限られたスペーズに載ること。だからこそ価値がある。
グリーは2008年12月に株式を公開。会員数約800万人、売上高約100億円のネット企業大手。起業を考えたのも「当時、新聞を読んでいて、これからはインターネットが世界に広がるということを知ったのがきっかけだった」と振り返る。
田中氏が大学に入学したのは1995年。ちょうどネット機能を持ったマイクロソフトの「ウィンドウズ95」が登場した年だ。大学生活はまさにインターネットと一緒に始まった。1977年2月生まれの田中氏は学年でいえば76年生まれと同じ。すなわち「Web2・0」ブームを支えた「ナナロク世代」の経営者の一人でもある。
「日々のニュースはインターネットで見ていますが、新聞にはニュースの背景や解説が書かれている」と田中氏。まず一面から目を通し、金融情報欄のところまで来たら、今度は後ろの文化面や社会面から反対に読んでいくという。読み物などは週末にじっくり読むことも多いそうだ。
上場してから新聞に登場する頻度も増えた。昔から親しんでいることもあるが、「やはり新聞に自社の記事が掲載されると率直にうれしい」という。「ネットとの違いは限られたスペースに載ること。だからこそ価値がある」。掲載された記事はデータに変換して保存しているという。
ネットと新聞の両方を読みこなしているだけに、新聞のスタイルにも手厳しい。「ネットの記事は簡単にブックマークできるが、新聞は物理的に切り抜かないとならない。閲覧手段としての紙媒体はこれからも残ると思うが、新聞社には同じ情報をパソコンや携帯端末でも読めるようにしてほしい」と注文する。
新聞に必要なのは解説や読み物。
新聞の編集方針にも一家言ある。「単なる事実情報だったらネットでも見られる。新聞に必要なのは解説や読み物。欲しいのは教科書より参考書」というわけだ。それに「最近の新聞の論調は高齢者に偏り過ぎ。我々のような若い世代に焦点を当てた編集をしないと、新聞離れが進んでしまう」と心配する。
新聞社の事業モデルにも苦言を呈する。「部数が減らないようにネットに載せる情報を限定している新聞社が多いが、基本的には全部、情報を載せるべきだ」という。ネットの事業モデルは最初は無料で使ってもらい、気に入ったら料金を払ってもらう。「新聞も新しい読者を呼び込むことが先決。そのうえで過去の情報は有料にするなど有料課金モデルを研究すべきだ」と提言する。
田中氏がさらに強調するのが「新聞とネットとの融合」だ。最近は「雲(クラウド)」にたとえたネット上のサーバー群が必要な情報をいつでもどこでも届けてくれるという「クラウドコンピューティング」に関心が集まっている。「新聞社もこれからはクラウド型の情報サービスへと転換すべきだ」と田中氏。
「メールはすでにクラウド型に移行している。同じメールをパソコンでも携帯でも読める」。その意味では「新聞の情報もこれからはスマートフォンや大型の薄型テレビなどでも読めるようにして欲しい」という。「ソニーはラジオからテレビ、ゲーム機へと事業モデルを進化させた。アップルはパソコンからネット配信の会社へと脱皮した。新聞社にもそうした事業モデルの転換があってもいい」というわけだ。
出会い系サイトなどネット系のサービスを批判したがる新聞の論調にも異論を挟む。「最近の若者は自分のブログやSNSを通じて仲間と情報交換している。自分のプロフィールをネットに公開している人も多いが、それがすぐ犯罪に結びつくわけではない」という。
新しい技術が登場する度にそれを批判する人がいつの時代にもいるが、「そういった人たちほどブログやSNSの情報発信者になっている」。ネットと新聞は競合する存在ではなく、「むしろこれからは双方の長所を生かし合って併存する関係になっていく」と田中氏。その意味では新聞には新しいネット技術やネット企業の成長を温かく見守ってほしいという。
PROFILE田中 良和
99年、日本大学法学部を卒業後、ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソネットエンタテイメント)株式会社 経営戦略部門を経て、2000年2月、楽天株式会社入社。オークション、ブログ、アフィリエイト、レビューなど、ユーザー向けサービスを立ち上げる。04年2月に個人の趣味としてgreeを独力で開発。同年10月、楽天株式会社を退社。同年12月、グリー株式会社を設立し、代表取締役に就任。著書には「僕が六本木に会社をつくるまで」(05年/kkベストセラーズ)がある。