OUENDAN新聞応援団
2014.04.01 update.
朝、電車の中で紙の新聞を読むのが日課だ。
「携帯電話ってすごい引力があって、持てば絶対に見てしまうじゃないですか」。
だからあえて遠ざけ、新聞を手に取って読むようにしているという。
あまり目立たない小さな記事にも目が留まる。新聞の片隅には、映画や小説の作り手にも想像できないようなニュースが載っている。
「僕はエンターテインメントの人間なので、みんなが読んでいる記事を、同じように読んでも仕方ない。人間の業とか、こんなことするんだとか、テレビでは扱えない、ネットならクリック数が伸びないからはじかれてしまうような記事を読むんです」
こうした小さな記事にこそ新聞社による「取材の意義」があるというのが持論だ。
「一面記事に載るのは事件や出来事などの『結果』であることが多い。小さな小さな記事には、この先大きなニュースになるかもしれない『予兆』がある」。
そうした記事は、全国に支社を構えていたり各地に支局を持っていたりする新聞社だからこそ書けるのではないかと指摘する。
上智大学新聞学科でジャーナリズムを学んだ。新聞は大好きだ。読んだ方がいいとも思う。でも、なぜ10~20代の若者が新聞を読まなくなっているのか、どうすれば読んでもらえるようになるのか、その答えは見いだせていないという。
ただ一つだけ、ヒントになると思っていることがある。
一時、紙の新聞を読むのをやめていた時期がある。数年前から再び読むようになって気付いたのは、紙の新聞ではデジタルメディアだと見落としてしまうところに目が向くということだ。
「映画も、映画館でなくても見られる時代だけど、何か大事なものを落としてしまう気がするんです」
紙面を開いたとき、目線はどう向かうのか、人間の生理的な感覚によってレイアウトされている。
それを新聞の持つ「気持ちの良さ」と表現する。
140年以上読まれてきた新聞の特性をデジタルで表現できれば、そこに答えがある、と。
「知りたい」という欲求が、若者の間で減っているとは思わない。「新聞を必要とする人が例えば学級全体に10%しかいないとしたら、そこに向き合うべきなんだと思います」。映画でも、ヒーローは窮地を乗り越えたのちに勝利する。「新聞は、若者に読まれていないという絶望と向き合う時期なんだと思います。絶望なくして勝利の道筋は見えないと、僕は映画から教わりました」。
新聞の愛読者として、最後にそんなエールを送ってくれた。
PROFILE川村元気
上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝入社。「告白」「悪人」「モテキ」などを製作し、優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を最年少受賞。初小説「世界から猫が消えたなら」を発表し本屋大賞にもノミネートされた。