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OUENDAN新聞応援団

2011.04.29 update.

新聞を親子のコミュニケーションに

町田守弘 | 早稲田大学教育・総合科学学術院教授

町田守弘さん2「インターネット社会になった今も、新聞の意義は大いにある」と早稲田大学の町田守弘教授は語る。「インターネットは『速い情報』。素早く知ることはできても、十分に検証されていないまま発信されている面がある。その点、新聞は『遅い情報』だが、専門家が検証を加えたうえで情報を発信しているので、質が高いものが比較的多いのではないでしょうか」
また日本語の学習という側面からも新聞は効果的な教材になるという。「漢字、語彙、表現の観点から考えたとき、新聞はしっかりとした日本語で書かれている。ネットには危うい日本語の使われ方も見られるのに対して、新聞というメディアの日本語としての精度の高さは価値があると思います」
2011年度から小学校で実施される新しい学習指導要領には、新聞の活用が盛り込まれている。今後、学校の授業で新聞が登場する場面は増えると思われる。私立中学の入試問題でも新聞はよく使われている。町田氏は「新聞を読んでいない若い世代にも、新聞には様々な活用法があることを知ってほしい」と語る。
町田氏は、早稲田実業中・高等部の教員として長年国語教育に携わってきた。その経験から「小学5、6年生くらいから新聞を使った学習は可能になる」と言う。例えば小学生がいる家庭では、親子のコミュニケーションに使うことを薦める。「今日はこんなニュースがあったね」と親から話しかけることで、子どもの社会への興味や関心を引き出すことができる。取り上げるのは4コマ漫画でも構わないという。新聞には多様な分野の記事が載っているため、どんなことに子どもが興味をもつのかを知ることができる。
また中高生にとっては、新聞は国語力をつけるための格好の教材になる。町田氏は同校で中高生を指導する際、課題としてほぼ毎日、新聞を読ませていた。「新聞は日刊。だから毎日新しい教材が届くようなものです」
具体的には、中学生にはコラムを毎日スクラップさせていた。漢字や語句の意味の学習とともに、表題をつけたり内容をまとめたりすることで、自然と漢字力・ 語彙力、そして読解力がつく。高校生には社説の要約に取り組ませた。また記事に見出しをつけたり、複数の記事の重要性を比べたりするだけでも良い学習になるという。
「子どもたちは、課題ということで最初は嫌だなあという表情で始めますが、不思議なもので毎日やっているうちに次第に新聞の面白さを体得するようになります」。さらに「新聞でよく使われる言葉と、ネットで使われる言葉を比較しても面白い。それぞれのメディアの特性も明らかになる」と提案する。
書く力をつける学習には、例えば読者の投書が利用できる。自分はこう思うといった投書への「返事」を書くのだ。一般読者の投書には、子どもにとっても身近な話題が多く、書きやすい。実際に投稿して新聞に掲載されれば励みにもなり、書く意欲は高まる。
町田氏は「中高生にとって作文が苦手な理由は、大きく分けると二つある」と指摘する。それは「何を書いたら良いのかわからない」と「どう書いたら良いのかわからない」だ。投書を題材にすれば「何を書いたら」は解決するし、新聞の文体を参考にすれば「どう書いたら」がわかる、という。
大学生には「社会人として必要なメディアリテラシーを身につける訓練として新聞を活用してほしい」と話す。「ネットの情報をうのみにしやすいですが、複数のメディアを読み比べてクリティカルにとらえることが求められます」
新聞を読みこなすことで、自分にとって必要な情報を取捨選択して活用する力をつけられる。「例えば同じ話題でも、新聞社によって異なるスタンスで書かれていることがある。そうしたものを読み比べても良いし、新聞とテレビの違いなどに着目しても良い。新聞には様々な分野の記事が載っているので、文系でも理系でも、幅広い学生のニーズに対応できるでしょう」

PROFILE 町田守弘

74年早稲田大学系属早稲田実業学校中・高等部教諭、94年から同校教頭を経て、2002年より現職。04年から07年まで早稲田実業学校初等部校長兼任。博士(教育学)。専攻は国語教育。三省堂国語科教科書編集委員。近著に、新聞記事が実際の中学入試問題に取りあげられた実例を紹介した「中学入試のために 新聞で鍛える国語力」(10年・朝日新書)がある。