OUENDAN新聞応援団
2015.04.03 update.
~オープンソースで「いつでも、どこでも、だれでもできる」が合言葉!大阪生まれの陸奥賢さんが街角の風景からヒントを得て生み出した「まわしよみ新聞」。多様な出合いの場を生み出す「メディア遊び」の手法を聞いた。
―そもそも「まわしよみ新聞」を始めた理由を教えてください。
始めたのは2012年9月29日です。きっかけは、3つほどあります。
そもそも僕が10年くらい全く新聞を読まなかったんです。もっと言うと「ネットがあればええやん。新聞なんかいらんわ」って男でした、ごめんなさい(笑)。ところが、まちづくりの仕事で、大阪の釜ヶ崎界隈を調査することになりまして、たまたま入った喫茶店で、日雇い労働者のおっちゃんとママさんが新聞を回し読んで楽しんでいる光景をみたんですわ。僕はコーヒー飲んでモーニング食べてただけなんですが。久しぶりにそういう光景を見てちょっと新鮮に感じて、「そういえば新聞ってみんなで回し読みができるメディアやったな」と気付きました。
次にこれまた釜ヶ崎なのですが、商店街の一角によろず屋がありまして。長く街を出入りしていると、その店主と仲良うなって、色々と珍しいもんを見せてくれるようになったんですわ。その店主が、あるとき持ってきたものが昭和40年代の「スクラップ帳」やったんです。黄ばんどるし、名前もないしで、誰のもんかさっぱりわからんのですよ。でも読み出すと、これが面白い。いろんな記事があったんですが、「なんでこの記事を切り抜いたのかわからん」みたいな記事もようさんあって、「切り抜いた理由」ってのが知りたなったんです。
3つ目は應典院という大阪のお寺がきっかけです。住職の秋田光彦さんは、もともとは映画プロデューサーというユニークな経歴のお坊さんなんです。秋田住職から「昔はお寺にいろんな人が集まっていた。寺子屋、町会所、祭礼の会議、駆け込み寺やったりと多様な出合いの場やったはずなのに、今は葬式仏教の場でしかない。このままでええんやろうか。もっと多様な人が集まるような総合文化祭をやろう。一緒に企画してほしい」と言われました。そのとき企画したのが「まわしよみ新聞」です。
―具体的にやり方を教えてください。
まず参加者の皆さんに新聞を買って来てもらう。その後、記事を回し読んで自分が興味・関心を持った記事を切ってもらって、紹介していく。その際に「切り抜いた理由」も説明するんです。同じニュースでもどこに興味を持つかは人それぞれで、それで「人となりがわかる」というわけです。みんなで紹介しあった記事を集めて四つ切り画用紙に再編集して壁新聞を作り、應典院で掲示しました。その新聞自体が文化祭の「出し物」や「作品」というわけです。
要するに、「新聞を読みましょう」とか「新聞を読まないといけない」という問題意識はまったくなかったんですわ(笑)。ただ、多様な人が集まり意見を言い合い、お互いの多様性を認め合う「場」を作りたかった。みんなが集まって楽しめる場を作りたいってだけやから、「みんなで鍋を作ろう」でも「みんなでカレーライスを作って食べよう」でもよかったわけなんですが、「世の中のいろんな新聞の面白い記事を再編集して、みんなの壁新聞を作る」という遊びをやってみた。これが想像以上にハマったといいますか、面白かったんです。
そうした「場作り」の体験から、新聞の魅力に気付かされまして。10年間、全く新聞を読んでなかったインターネットどっぷりの人間が、新聞の可能性に開眼して、いまでは日本全国を巡って「新聞はすごいぞ!」と言いふらす存在になりました(笑)。
―なぜ新聞を使うと「場」作りが面白くなるのでしょう?
そもそも人が集まる時は「目的」があります。つまりテーマです。例えば「原発について語ろう」なんて討論とか哲学カフェが開かれたりすると、そこに興味関心がある人しか来ない。その段階で参加者の幅が狭なってるんですわ。結局、「似たような人間ばかり」の場やから、その中で話をしても実はあまり新しい発想やアイデアなんてのは思いつかない。話が飛躍しないんですね。
でも、まちには多様な人がいます。多様な人がいるからまちになるといいますか。だから僕は「目的がない人」「通りすがりの人」「まちの人」にこそ、場に参加してほしいと常々、思っていたわけです。そうなると「ノーテーマの場を作る」というデザインが必要で、「新聞」はうってつけでした。なんせ新聞の朝刊1部には平均で20万文字もの情報が掲載されてるといいますから。政治、経済、文化からテレビ欄、ラジオ欄、料理、書評、映画レビューからコラムから投稿欄まで。ほんまにいろんな情報がそろってます。その中から自分の興味がある記事を切り抜いて話をする。参加者によって、なんの記事が出てくるかわからない。「そんな記事があったんですか」の連続で、ビックリ箱みたいな会話の場になるわけです(笑)。
また面白いのが、例えばAさんが出した記事はBさんにはそれほど興味はなかった。でも、いざAさんの話を聞いてみると興味が出てきたりする。さらに興味がなかったBさんが、新しい視点でAさんの記事への感想を語りだす。それがAさんにとっても予想外の発見や意外な驚きにつながる。予想しない方向に話が転がっていく。ノーテーマの多様な人が集まる場やからこそ、こういう現象が起こりえます。多様な記事が掲載されている新聞は、こうした「話のタネ」の宝庫なんです。しかも100円ちょっとで、毎日購入できる。ほんまに新聞を考えた人はすごいと思います。
まわしよみ新聞:http://www.mawashiyomishinbun.info/
さて前編はここまで!後編の次回は2015年4月10日(金)アップとなります!
PROFILE陸奥 賢
フリーター、放送作家&リサーチャー、ライター&エディター、生活総合情報サイトall about(オールアバウト)の大阪ガイドなどを経験。2007年に大阪・堺の観光プロジェクトで地域活性化ビジネスプラン「sakai賞」を受賞(主催・堺商工会議所)。08年に大阪コミュニティ・ツーリズム推進連絡協議会「大阪あそ歩」のプロデューサーに就任。12年にはコミュニティ・ツーリズム事業として初めて「観光庁長官表彰」を受賞。現在は観光、メディア、まちづくりに関するプロデューサーとして活動中。「いつでも、どこでも、だれでもできるコモンズ・デザイン」を掲げる新しいメディア遊び「まわしよみ新聞」の発案者でもある。