OUENDAN新聞応援団
2011.04.30 update.
「車が売れない時代」。輸入車セールスマンの舘野文誉さんにとって、国内自動車市場でささやかれるこんな言葉はあまり実感がない。情報のアンテナを張り巡らし、朝も夜も自分の時間を削って顧客の元に駆けつけ、売りまくっている。
出社前、新聞3紙をチェックするのが日課だ。政治、経済、スポーツなどのジャンルを問わず、1時間は読み込む。「旬な情報をとりあえず入れておくのは当然 ながら、どんな話題にも対応できないとセールスができない」。幅広い知識を身につける上で、新聞が大きな武器になると思っている。BMWは高級車のジャン ルに入るため、顧客は金銭的にも豊かな人が多い。「成功者と言われる皆さんは、基本的に新聞を読むアナログ派の人たち」だといい、自分も読み込んでいなけ ればまともに話を合わせられない。
セールスマンとして、車の魅力、車に対する愛着、知識などは「あって当然」。だからこそ「『あいつ、なんか面 白いな』と思われるかどうかが勝負。車を買ってもらうのは人間力」と言い切る。「最近どうなの?」という何気ない問いかけから、どれだけ相手との距離が縮 められるか。休日でもスーツを身にまとって顧客ととことん付き合い、要望があればトヨタなど他メーカーの車を紹介することも。労を厭(いと)わず関係をつ くっていれば、いずれBMWの車に目が向いたり、新たな顧客を紹介してくれたりすることもある。人脈が人脈を呼び、携帯電話に登録した顧客リストは 2500人にも達し、9割近くは紹介してもらった人たちだという。
新聞を読む際には、自分なりの楽しみ方がある。「はっきり書いていないけれ ど、『本当はこういうことを言いたいのだろうなあ』って想像ができる記事がある。記者の表情が思い浮かぶのは新聞ならでは」と話す。最近は何となく文章が 「守り」に入っている雰囲気を感じるといい、「プライバシーの問題とか取材先との関係とか、いろんなことがあると思うけど、精いっぱい、ギリギリのところ まで書いて読者を楽しませてほしい」と要望する。一方で「そういう文章を日々読んでいることが、実際の商談で役に立つことがある。はっきりとはしゃべらな いけれど、この人の実際の思いはここにあるっていうのが感じられるから。何となく落としどころが見えてくる」と冗談交じりに笑う。
日々情報を集 めながら、多くの人と出会う毎日だが、セールスを担う後輩の姿には、物足りなさを感じることがある。「相手と話が通じず、会話ができない」。問題だと思う 点の1つが、情報の仕入れ方だ。「インターネットでニュースをみる世代だっていうことが影響しているかも。ネットでは自分の興味があるニュースしかクリッ クしない。幅広く、深い情報を仕入れるには、やっぱり新聞」という思いがある。彼らに購読を勧めるのも、自らの体験からだ。「丸裸で戦場に出ては、『知ら ないことを聞かれたらどうしよう』ってことになってしまう。どんな話題でもついていかないといけない。新聞を読んでいろんな武器をそろえてほしい」と強調 する。
ただ、若者が新聞から離れるのは、新聞の側にも原因があると思っている。「若い人に聞くと、本当に読んでいない」というのが正直な実感 だ。政治、経済、社会と従来の情報はそろえつつ、ファッションや芸能、ランチなど、若者が興味を持ちそうな話題を盛り込んでみてはどうか、と提案する。 「新聞の大きさも、電車で読みやすい片手サイズにしたらスタイリッシュになるかもしれないし、メール世代だから横書きにしてみるとか、いろんなことが考え られる。あと、活字に慣れていないから、難しい言葉を使うと誰も読まない」と指摘する。長年新聞を活用してきただけに、「今までの良さをなくさずに、どう したら読まれるかを考えてほしい」と願う。
PROFILE舘野文誉
プロゴルファーを目指し、中嶋常幸プロの下で修行するなどしたが、30歳を迎えたのを機に車ディーラーの世界へ転身。98年に輸入車販売のヤナセに入社し、03年からBMWの担当に。当初から年間100台を超える販売を続け、ヤナセ全店で販売実績トップの座をキープしている。