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2017.04.07 update.
【平成30年史】第2部 イノベーションとiモード④ グーグル、フェイスブック… 「i」遺伝子 世界のIT企業に
NTTドコモは、iモードを発表した翌年の平成12年、オランダの通信会社に約5千億円を出資したのを手始めに、海外展開に乗り出した。当時、ドコモのオフィスでは、流暢(りゅうちょう)な日本語を話す長身のスウェーデン人青年が働いていた。
名前はジョン・ラーゲリン(40)。まだ20代だったが、iモードのライセンス付与で海外通信会社の役員と直接交渉していた。上司だった夏野剛(51)が「語学だけでなく、コミュニケーション能力が抜群だった」という青年はその後会社を移り、移籍先がグーグルに買収された。
「iモード開発部隊にいたのか」。グーグルはその経歴を買い、当時進めていた携帯電話用基本ソフト(OS)「アンドロイド」の開発に参加させた。現在はIT企業の雄、フェイスブック(FB)に移り、スマートフォンでFBを利用するシステムの責任者となっている。「モバイルが弱かったFBが、この3年で絶好調になった」と夏野は言う。
ラーゲリンはiモードについて「料金など、ビジネスの条件について最適なバランスを見つけた」と評価し、こう話す。「パートナーの立場の理解と動かし方、国際ビジネス。全てがアンドロイドのシステムを構築するときに役立った」
米アップルも28年秋、「iPhone(アイフォーン)7」に、電子決済機能「アップルペイ」を日本で導入した。iモード携帯が10年以上前に実現し、「ガラパゴス」と揶揄(やゆ)された「おサイフケータイ」の機能だ。
「グーグル、アップルは、iモードのビジネスモデルを踏襲し、世界に広げてくれた」。夏野の言葉には悔しさでなく、先行モデルをつくった誇りがにじむ。
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■生まれるか 次の〝日本発〟
ドコモがiモードを始める1年ほど前、玩具大手、バンダイ(現バンダイナムコホールディングス)は270億円の特別損失を計上していた。原因は、米アップルコンピュータと共同開発したゲーム機「ピピン@(アットマーク)」。電話回線でインターネットにつなぐ斬新なゲーム機だったが、7万円超の価格やソフトの不調で出荷台数は約4万台、「世界で最も売れなかったゲーム機」と陰口をたたかれた。
iモードのサービスを耳にしたのは、そんなときだった。現バンダイナムコエンターテインメント取締役の宇田川南欧(なお)(43)は新規事業開発部門にいた。
待ち受け画像という概念がなく、画面が真っ暗だった当時、「機動戦士ガンダム」などのキャラクター画像を待ち受け用に配信するアイデアが生まれた。皮肉にもピピンで用意したサーバーが大量に余っていた。
平成11年6月、月額100円のサービス『キャラっぱ!』を開始すると「自分だけの携帯」というニーズをつかみ、12年3月には会員が100万人を突破した。
宇田川は「iモードで、知的財産をデジタル化するという新しいビジネスが生まれた」と話す。同社のデジタルコンテンツ事業の売上高は3209億円で、玩具の1・5倍を超えている。「会社としても大きな転換点だった」
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内外に多くのビジネスモデルを生んだiモードは、なぜ衰退する運命を歩んだのか。
開発責任者の榎啓一(67)は、「電話であることを捨てられなかった。キャリア(通信会社)は一般的においしいビジネス。認可も、責任もあった。仕方なかった」と回顧する。
「(ネット通販大手の)アマゾンから見れば、端末や回線が何だろうと関係ない。彼らは顧客情報を持っている。グーグルやアップルだって安心はできない」
ドコモは3年後をめどに、第5世代移動通信方式(5G)の環境を整備する。2時間の動画を3秒で送信する超高速が売りだ。
現在、ドコモでコンテンツサービスを企画するプラットフォームビジネス推進部で次長を務めるのは、記者が7人だったiモードの発表会見に立ち会った原田由佳(52)だ。「5Gで、映像を含めて趣向を凝らした豊かなコンテンツが実現する。あの時のノウハウを生かすことはいつも考えている」と話す。
競争戦略が専門の一橋大大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建(52)は「iモードがなければスマートフォンの登場は遅れていた。間違いなくイノベーションといえる。だが30年という期間ではワンス・イン・ア・ライフタイム(一生に一度)。日本からそういうものが出たことを言祝(ことほ)ぐべきだ」と話す。
今後、日本からイノべーションは生まれないのか。
「イノベーションは、物事の進歩ではなく、『何が良いか』が変わること。自分の中に『どうしてもこういうことがしたい』というものがある人が起こす。そういう人に自由度や資源を与えるなど、できることはいっぱいある」=敬称略、年齢は現在(第2部おわり)
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この連載は高橋寛次、大坪玲央が担当しました。
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【用語解説】イノベーション
蒸気機関やコンピューターの登場のように、人々の生活や経済・社会全般に大きな影響を与える革新を指すことが多い。オーストリアの経済学者、シュンペーターは新製品のほか、生産方式や原材料の供給源など、企業に活力を与える新機軸をイノベーションとして定義した。
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VOICE!miwa シンガー・ソングライター
いまや携帯は仕事においてもプライベートにおいてもなくてはならない必需品ですが、これからさらに通信速度が速くなり新しいコンテンツが生まれ、使い方ももっと広がるのかと思うと、すごいなぁと感じます。そうなると、携帯に求めることも変わるのでしょうね。自分のなかに『どうしてもこういうことがしたい』というものがある人がイノベーションを起こすという言葉がとても印象に残りました。ものづくりに大事なことは情熱だと改めて思いました。