イベントリポート「子どもたちを囲む情報の森~冒険の仕方をどう教えるか」(2023年1月5日開催)

2023.02.24 イベントリポート

ニュースパーク(日本新聞博物館)は1月5日(木)、学校の先生方や学校司書の方々を対象にしたイベント、「子どもたちを囲む情報の森~冒険の仕方をどう教えるか」を開きました。講師は、中央大学教授の松田美佐先生、法政大学教授の藤代裕之先生、白鴎大学特任教授で光村図書小学5年国語教科書に載っている「想像力のスイッチを入れよう」著者の下村健一先生、奈良女子大学附属中等教育学校主幹教諭の二田貴広先生の4人をお招きしました。

子どもたちが真偽ないまぜのたくさんの情報に囲まれているいま、「情報と新聞」の博物館としてニュースパーク(日本新聞博物館)は2022年3月、「情報の森」の冒険の仕方をテーマに展示を刷新しました。「情報の森」とは、情報の一つ一つを木に例え、情報がたくさんある様子を表しています。展示では、今回講師を務める4人の先生が「賢者」役になって、冒険に必要なアイテムなどを授けています。

22年9月に行った小学校高学年から中学生の親子を主な対象にしたイベントに続くもので、今回は学校の先生や学校司書など教育関係者のみなさん(会場25人、オンライン105人)にご参加いただきました。

イベントではまず、当館館長・尾高泉からイベントの趣旨を説明しました。「『情報の森』の展示は、SNS社会を象徴するコロナ禍の情報をめぐる混乱『インフォデミック』を受けて、メディアリテラシー教育に使っていただけるように、講師の4人には『情報社会と新聞』の展示改修から協力いただいています。展示だけでなく、サブテキスト、学習動画、イベントを通じて、学校の先生や学校司書と、専門家の先生とをおつなぎしたい」と話しました。

冒険に必要なアイテムとは

最初の賢者、松田先生は「盾」を授けています。情報の森を探検する際に必要な、身を守るための道具です。「もっともらしい話、今すぐ役に立つ情報があった時に、飛びつかずに、慎重に近づく」ことが大切で、「盾は常に手入れしながら、バージョンアップしながら使ってほしい」と話しました。

松田先生はうわさや都市伝説の研究をしています。うわさ話には、人間関係の維持や確認という側面があるそうです。ウソと分かり切ったことではなく「本当だったら困る」ようなことを、「内緒だけど」と言いながら、「あなたにだけは伝える」。それゆえに、事実かどうか見極めるのは難しいと松田先生は言います。

次の賢者、藤代先生は「スコープ」を授けています。ロシアのウクライナ侵攻以来、プロパガンダ(情報戦)が繰り広げられ、日本にもフェイクニュースが侵入して、私たちの目に入ってきます。こうしたことを藤代先生は「ニュース生態系の汚染」と呼んでいます。「スコープ」を使って発信元を押さえることで、プロパガンダや不確実な発信者によるニュースでないか確認してほしい、また調べ学習でも、どこの誰が書いていたのかを確認し、明記することで、だまされる確率が下がると思う、と藤代先生は話しました。

藤代裕之先生

3人目の賢者、下村先生は「ひかり球」を授けています。情報は、発信者が伝えたい部分に光が当てられています。情報を疑えというと、情報の光っている部分を否定するように聞こえますが、そうではないと下村先生は言います。「大事なのは、光っていない外を肯定すること」。コロナでトイレットペーパーが無くなったときのことを例に挙げ、「空っぽな店の棚に光が当たっていたけれども、その外に光を当てると製紙会社ではうず高く積まれた在庫の山があった」とひかり球の使い方について説明しました。

最後の賢者、二田先生が授けるのは「なかま」です。二田先生は高校の国語の先生。これまでメディアを使った授業をしてきた経験から、新聞社の人やほかの先生、学校司書の協力の大切さを感じているそうです。また、二田先生は学校で、新聞協会NIE委員会が行っている「いっしょに読もう!新聞コンクール」にも取り組んでいます。

コンクールは、①自分が記事を選んだ理由や思ったこと、考えたこと、②家族や友達の意見、③話し合った後のあなたの意見や提言――を書くという3段階を踏んでいて、自分にない意見を聞き取って、考えることがいいと二田先生は言いました。
また二田先生は、コロナで休校になり、子どもたちはほかの人の意見について直接聞く方が、いろんなことを聞き取ることができると分かったともいいます。また、異なる考えやいくつかの観点が出てきそうな記事を選んで授業をすると、「なかま」の意見を生かしやすい学びができると提案しました。

二田貴広先生

賢者からの4つのアイテムなどが紹介された後は、いよいよ会場とのディスカッションが始まりました。

まず、アイテムの使い方について「盾」と「スコープ」の違いを小学校5年生にどう教えればいのかという質問。松田先生から「盾」は、まず情報と向き合うという心構えをすることと説明があり、続けて藤代先生から「スコープ」は、どこを調べるのかということだと説明がありました。調べるのは、もちろん情報の出元です。

年代・学年による教え方の違いという点への関心が高く、いくつか質問が出されていました。下村先生は、子供から高齢者まで幅広い年代を対象にご講演している経験をもとに、「骨格は変わらないが、説明に使う例題は変えている」と話しました。また、会場から調べ学習の進め方について、「小学校3年生を受け持っていた時は、教員が精査した情報を提示していた。学年が上がるにつれてそうしたフィルターを外していく」という方法も紹介されました。

鍵となる学校司書

ディスカッションでは、学校司書の役割について注目されました。児童・生徒一人一人に端末が行き渡っており、すぐに情報にたどり着く端末に頼りがちになるとの声に、「図書館で単元のテーマに合わせた特設コーナーを作ってもらうといい」(二田先生)、「司書の先生に、ネットのアルゴリズムで出されるものとは違った情報を放り投げてもらうことが大切だ」(下村先生)とのアイデアが出されました。また、「調べ学習でも、司書の方のレファレンスは参考になる。レファレンスは情報を探すためのスキルだ」(藤代先生)との指摘もありました。

調べ学習をするときに情報の出元を書くようにすると、随分と意識が変わってくるのではないか、と藤代先生が発言すると、会場からも「どこが出所なのか問い続けるようにすると、情報を精査する素地ができるかと思う」と応じる意見が出されました。

「フェイクや印象のニュースにとびついてしまう心理を考えることも大切ではないか」との意見には、まず松田先生から「『面白いな』『ありえそうだな』と思うことを伝えてしまうことは、みんなにあるんだと認めることが大切だ」と回答。下村先生も「情報を疑えと言うと、『うそつきだと思え』ということになり、子供たちはそんなことできないと感じてしまう。『No. But...』ではなく『Yes. And...』。否定するのではなく、『そうなんだ』と一旦聞いた上で自分の見方を足し算することが大切だ」と話しました。

その後、さらに深く話し合うために、会場は2つの、オンライン3つのグループに分かれました。

各グループで話された主なトピックを紹介します。

松田美佐先生

松田先生のグループ(会場):対話の重要性や、新しいメディアへの対応法について話し合った。

藤代先生のグループ(オンライン):情報の見極めはどうすればいいのか、司書が学校で新聞や資料をどう活用しているのかといった話になった。

下村先生のグループ(会場):子供たちは情報を絶対視するところがある。伝言ゲームを使うなど、遊びによって情報の受け止め方の基礎を小学校低学年から考えたいという話があった。

下村健一先生

二田先生のグループ(オンライン):メディア・情報リテラシーは教科ではないので、どうやって教えればいいのか議論になった。デジタルシチズンシップの大切さにも言及があった。

尾高のグループ(オンライン):学校司書と先生の連携に関する事例や課題が多く出された。情報センターとしての図書館の活用などの例も出た。

グループ討議の中で出された質問として藤代先生に「引用を精査するにはどうすればいいのか」と問いかけがありました。藤代先生からは「怪しそうなものは取り上げないという程度でいいと思う」と答えました。

最後に講師の方々から「自分たちもヒントが得られた。副読本やワークシートを作っていきたい」(藤代先生)、「司書と協力すれば、もっと面白いものができると思った」(二田先生)、「情報との付き合い方には正解がない。教室でみんなで試行錯誤できるとよい」(松田先生)、「リテラシー教育がカリキュラムではなく、日常化するようになると、日本社会の明日は安定感を取り戻せるのではないか」(下村先生)といった感想が出されました。

参加者アンケートでも、今後の展開に期待するご意見をいただいており、博物館では検討を進めたいと考えています。